「今まで教えた分、どうなるの」AIが終わる日に持ち出せない2つ
ChatGPT Atlasが公開9か月半で終了。移行案内に載るブックマークや履歴より、カスタム指示とメモリのほうが痛い。書き出す口が無い層を、AI本人に吐き出させて1枚のテキストに退避させる手順とコピペ用プロンプト。
昨日8月9日、OpenAI のAIブラウザ「ChatGPT Atlas」が止まりました。2025年10月21日の公開から、9か月半です。
公式の移行案内には、ブックマークはHTMLで書き出して他のブラウザに読み込め、開いているタブのURLは自分でコピーしておけ、と丁寧に書いてあります。ただ、9か月ぶんそのツールを使い込んだ人が本当に失うものは、ブックマークではありません。
失うのは、そのツールに向かって自分が言ってきたことのほうです。そして移行案内には、その持ち出し方が書いてありません。
2026年、OpenAIひとつで2つ消えた
まず事実だけ並べます。動画生成の「Sora」は2026年4月26日にWeb版・アプリともに終了し、終了日以降はコンテンツを復元できないと案内されました。ブラウザの「Atlas」は7月9日に終了が告知され、8月9日に停止。告知から停止まで、約1か月です。
つまり今年、一社のプロダクトだけで2つ畳まれた。しかも片方は寿命9か月半でした。これは特定の会社が雑という話ではなく、AI製品がまだ「どの形で提供するのが正解か」を探している最中だから起きることです。探索中の製品は、統合されるか、畳まれる。
読者側の教訓は単純です。いま使っているAIツールが2年後も同じ形で存在している保証はない。そして猶予は1か月かもしれない。
移行案内に「書いてあるもの」ほど、失っても痛くない
ここが今日いちばん言いたいところです。
Atlasの移行案内に書いてあるのは、ブックマーク・履歴・開いているタブ。どれも書き出す手順が用意されています。そして正直に言えば、この3つは失っても大して痛くない。ブックマークは検索し直せるし、履歴はほとんど二度と見ません。
痛いのは案内に載っていないほうです。カスタム指示に書いた「私は介護施設向けの文章を書くので、専門用語には必ず読み仮名を付けて」。何十回目かの会話でようやく通じた「箇条書きにするなら3つまで、それ以上は見出しで割って」。AIのメモリに溜まった、こちらの癖への適応。
これらは全部、自分の頭の外にあります。だから、いざ乗り換えようとしたときに思い出せない。「なんか前のほうが良かった」という感覚だけが残って、何が違うのか言語化できない状態になります。
【AIに溜まる4層と、その出口】
① ブックマーク・履歴 …出口あり/再現ラク
② 会話ログ …出口あり/再現ふつう
③ カスタム指示 …出口なし/再現つらい
④ メモリ・覚えた癖 …出口なし/再現が最悪
↓
出口がある層ほど、失っても痛くない
なぜ「設定」にだけ出口が用意されないのか
理由を推測ではなく構造で説明します。
データ書き出し機能は、多くの場合「個人データの持ち出しに応じる」という規約や法制度上の要請に沿って作られます。そこで想定されているのは、会話ログのような「記録」です。実際、会話履歴の書き出しはたいていのサービスに用意されています。
一方でカスタム指示やメモリは、社内的には「記録」ではなく「設定」の棚に入っています。設定は各サービス固有の形をしていて、他社に渡しても読めない。だから、まとめて書き出す導線が優先的には作られません。
結果として、再現コストがいちばん高い層に、いちばん出口がないという配置になります。ここを自力で埋めるのが今日の本題です。
コピペ1つ:AI本人に「私について知っていること」を吐き出させる
出口が用意されていないなら、AI自身に喋らせればいい。いま使っているAIにそのまま貼ってください。
私について保存している情報を、すべて書き出してください。
・保存されている記憶(メモリ)の項目
・私が設定したカスタム指示の内容
・「今後はこうして」と言われ以後守っているルール
条件:推測や一般論は入れないでください。
実際に保存・指示されている内容だけを、
原文に近い言い回しで箇条書きにしてください。
該当が無い項目は「なし」と書いてください。
つまずくポイントを2つ先に言っておきます。
ひとつ目。「条件:推測は入れない」を外すと、それらしい嘘が混ざります。AIは「あなたについて知っていることを言え」と言われると、会話の流れから推測した人物像まで一緒に書きます。書き出したものを移行先に貼り直す用途では、これは害にしかなりません。「該当が無い項目は『なし』と書いて」まで入れておくと、空欄を埋めるための作文が減ります。
ふたつ目。出てきた内容は必ず設定画面と突き合わせてください。メモリやカスタム指示の実データにどこまでアクセスできるかはサービスによって違い、AIの自己申告が実際の保存内容と一致する保証はありません。ここは「たたき台を一瞬で作らせる」道具であって、正解を取り出す魔法ではないです。
引き継ぎメモは、この4つの見出しで持つ
吐き出させた内容を、そのままテキストファイルにして自分の手元に置きます。構造はこれで足ります。
■AI引き継ぎメモ(最終更新: 2026-08-10)
1)私の前提(職種・扱う題材・想定読者)
2)出力の決まり(文体・長さ・やらないこと)
3)毎回使う定番の頼み方(3〜5本、原文のまま)
4)うまくいかなかった頼み方と、その直し方
4)を入れているのが肝です。ふつう引き継ぎメモには「うまくいったこと」だけを書きますが、乗り換え後にいちばん時間を溶かすのは、前のツールで一度失敗して直したはずの頼み方を、もう一度同じ順番で失敗し直すことだからです。失敗の記録は、成功の記録より再取得が高くつきます。
なお、3)は要約せず原文のまま貼ってください。「丁寧に書かせるプロンプト」と要約したメモは、貼り直しに使えません。
告知を待たない。この1枚は乗り換え検討にも効く
【いま】終了告知 → 慌てて移行先を探す
→ 何を教えたか思い出せない
→ 一から育て直し(数週間)
【備え】平常時に「引き継ぎメモ」1枚
→ 告知が来たら貼るだけ(5分)
このメモの価値は、サービス終了のときだけではありません。新しいモデルが出るたびに「乗り換えるべきか」で迷う時間が消えます。比較したいとき、同じ1枚を両方に貼れば、条件を揃えた比較ができるからです。いま迷っているのが実力差なのか、単に片方を育てていないだけなのかが、これではっきりします。
作るのは初回5分、更新は月1回1分で十分です。私は毎日AIでコンテンツを作っていますが、この1枚があると新しいツールを試すときの心理的なコストが目に見えて下がりました。「試して合わなかったら戻ればいい」が本当になるからです。
まとめ
- 2026年、OpenAI のプロダクトだけで2つ終了した(Sora 4/26、Atlas 8/9)。告知から停止まで約1か月。
- 移行案内に載る層(ブックマーク・履歴・会話ログ)は、出口があり、失っても痛くない。
- 痛いのはカスタム指示とメモリ。再現コストが最も高い層に、出口が用意されていない。
- 対策は、AI本人に保存内容を吐き出させて、テキスト1枚として自分の手元に置くこと。ただし推測を禁じ、設定画面と突き合わせる。
- この1枚は終了時だけでなく、乗り換え判断の比較土台にもなる。
今日の一歩は、いま開いているAIに上のプロンプトを貼るだけです。3分で、自分が何を教えてきたのかが初めて目に見える形になります。
使っているAIツールが突然終わったら、何が手元に残りますか。同じ不安があった方は♡やブックマークを、こういう運用の話を続けて読みたい方はフォローしてもらえると励みになります。
この記事は note にも掲載しています(初出: note版 2026-08-10)。