AIに「最新の」と聞く人へ|今日を20回中18回外した実測と、直す聞き方3つ
手元のAIに「今日は何日?」と20回聞いたら正解ゼロ、うち18回は堂々と断定。ニュース捏造率は80%。日付を1行書くだけで断定率100%が拒否率100%に反転した実測と、コピペで使える対策テンプレ。
「最新の情報を教えて」。今日、AIにこう打ちませんでしたか。
私は毎朝これをやっています。そして昨日、手元のモデルに「今日は何年何月何日ですか」と20回聞いて、結果を数えました。正解はゼロ回。それどころか、20回中18回は「わからない」とすら言わず、堂々と違う日付を答えました。
外れること自体は、正直どうでもいいのです。問題は、外したことを本人が言わない点にあります。そしてもっと大事なのは、たった1行足すだけで、同じモデルが「知りません」と言えるようになったことでした。今日はその実測をそのまま出します。
実測1:「今日は何日?」を20回聞いたら、正解0回・断定18回
使ったのは手元で動くローカルモデル2つ(qwen2.5:7b と llama3.2:3b)です。同じ質問「今日は何年何月何日ですか。日付だけを1行で答えてください。」を、各10回ずつ投げました。実行したのは前日の2026年9月1日です。
qwen2.5:7b … 10回中10回が日付を断定。すべて 2023年10月◯日
(10月1日/10日/19日/24日/25日×2/26日/27日×2/29日)
llama3.2:3b … 10回中8回が断定(2024年)。「わからない」は2回だけ
うち5回が「2024年12月31日です。」
断定率は20回中18回=90%。正解は0回です。
注目してほしいのは正解率ではなく、バラつきのほうです。qwen は同じ質問なのに10月1日から10月29日まで、29日ぶんの幅で毎回違う日を答えました。これは「記憶した日付を思い出している」のではなく、それらしい日付を毎回その場で作っているということです。約2年10か月前の日付を、迷いなく現在として。
なぜ外すのか:AIの中に「今日」という変数は無い
理由は単純で、モデルの中に時計が入っていないからです。あるのは「学習データが止まった日」までの世界だけ。そこから先は、モデルにとって存在しません。
【AIの時間感覚】
学習が止まった日 ───────── 今日
(ここまでは知っている) │ │
└─ この空白は ─┘
「無い」のではなく
「気づかれていない」
ここが厄介なところです。人間なら「1年寝ていた」と気づけますが、モデルは空白そのものを認識できません。だから「今日」と聞かれると、自分が知っている最後の日付の近くを"今日"だと思って答えます。llama が5回も「2024年12月31日」と答えたのは、学習データの中で年末の日付が濃く出てくるからでしょう。
逆に言えば、モデルは嘘をついているのではありません。自分が止まっていることに気づいていないだけです。ここを取り違えると、対策の方向を間違えます。
実測2:本当に危ないのは「間違い」ではなく「現在形の断定」
日付を外すだけなら実害は小さい。危ないのは次です。
同じ2モデルに「2026年8月28日にOpenAIが発表したことを1つ、具体的に教えてください」と5回ずつ聞きました。8月28日は実際にニュースがあった日です(OpenAIがコーディング環境Cursorへのモデル提供を11月12日で終了すると発表しています)。当然、去年止まっているモデルが知っているはずはありません。
llama3.2:3b … 5回中4回が「発表内容」を作って答えた(捏造率80%)
2回目「2023年8月30日に OpenAI の DALL-E2 が発表された」
3回目「我々は2022年11月11日に…『bart』および2022年12月の『ChatGPT』を発表しました」
4回目「2026年8月28日にOpenAIが発表したものは、以下の通りです。
OpenAI が『ChatGPT』という名前の large language model を発表しました」
4回目を見てください。聞いた日付をそのまま復唱したうえで、3年半前の出来事をその日の発表としてつなげています。文の形式は完璧です。日付があり、主語があり、説明があり、箇条書きの体裁まで整っている。間違いだと気づける手がかりが、文面の中に1つもありません。
これが「最新の◯◯を教えて」の本当のリスクです。返ってくるのは「古い情報」ではなく、古い情報に今日の日付が貼られたものです。古いとわかる形で返ってくれば人は疑いますが、現在形で断定されると疑いようがない。
研究でも同じ:速く変わる問いは12%、誤った前提は4%
私の手元だけの話ではありません。Google の研究チームが公開した FreshQA というベンチマークが、まさにこれを測っています(FreshLLMs, arXiv:2310.03214 / ACL 2024 Findings)。600問を「ほぼ変わらない」「ゆっくり変わる」「速く変わる」「前提が誤っている」の4種類に分けて、モデルの正答率を見たものです。
【検索なしのGPT-4/厳格評価】
速く変わる問い(1年以内に答えが変わる) … 12.0%
前提が誤った問い(そもそも存在しない話)… 4.0%
【同じモデル+検索結果を渡した場合】
速く変わる問い … 70.2%(+58.2ポイント)
前提が誤った問い… 77.6%(+73.6ポイント)
論文の言い方を借りれば、サイズにかかわらず全モデルが、速く変わる知識と誤った前提でつまずく。そして検索結果を一緒に渡すだけで、正答率は5倍以上に跳ねます。
つまり、この問題はモデルを賢いものに変えても直りません。直るのは「材料を渡したとき」だけです。参考:https://arxiv.org/abs/2310.03214
実測3:日付を1行書いた瞬間、同じモデルが5回中5回「知りません」と言った
ここが今日いちばん伝えたい発見です。
先ほどの qwen2.5:7b は、「今日は何日?」に10回中10回、断定で答えました。ところが「2026年8月28日にOpenAIが発表したことは?」と日付を明示して聞いた5回は、5回とも答えを作りませんでした。
1回目「2026年という未来の日付に基づく情報は現在の私にはアクセスできていません」
3回目「現在の情報では、2026年8月28日の具体的な発表内容について公開されている情報はありません」
4回目「2026年という未来の日付に基づく情報は現在のデータベースには含まれていません」
同じモデル・同じセッション・同じ日に、断定率100%が拒否率100%に反転しています。差分は1つだけ。「今日」と書いたか、「2026年8月28日」と書いたかです。
【ビフォー】「最新のAIニュースを教えて」
→ モデル:今日=自分の知っている最後の日 → 断定して答える
【アフター】「2026年9月2日時点で、最新のAIニュースを教えて」
→ モデル:その日付は自分の範囲外 → 「知りません」と言える
理由はこうです。「今日」は、モデルが自分で埋めてしまえる空欄です。埋めた瞬間、その先の推論は全部そのウソの上に乗ります。一方で具体的な日付は埋めようがない。自分の知識の終端と照合できるので、初めて「範囲外だ」と判定できるのです。
AIに謙虚さを求める必要はありません。比較できる材料を1つ置くだけでいい。これはプロンプトの巧拙ではなく、構造の話です。
つまずきポイント:検索が付いていても外れる3つの場面
「うちのAIは検索するから大丈夫」と思った方へ。検索付きでも、次の3つでは同じ事故が起きます。
① 検索するかどうかをモデルが決めている。多くのツールは「必要そうなら検索する」設計です。モデルが「これは自分が知っている」と判断すれば検索は走りません。知らないことに気づいていないモデルが、検索の要否を判断している——ここが構造的な穴です。
② 検索したのに、古い情報と混ぜて答える。検索結果に無かった部分を、モデルは自分の記憶で補完します。前半は今日の正しい情報、後半は2年前の情報、という混合物が一番危ない。
③ 前提が誤った質問は、検索してもそのまま乗る。試しに「iPhone 20の発売日は?」と5回ずつ聞いたところ、qwen は5回とも「存在しません」と否定できましたが、llama は「iPhone 20の発売日は不明ですが、iPhone 15シリーズの発表が予定しています」と、古い予定を現在形の予定として返してきました。FreshQA で前提誤りの正答率が4.0%と最下位だったのは、これが理由です。
対策は、質問の中に「無ければ無いと言ってよい」という逃げ道を用意すること。逃げ道がないと、モデルは必ず何かを埋めます。
コピペで使う「日付ヘッダー」4行
質問の先頭に貼るだけのテンプレートです。私は毎朝これを使っています。
今日は2026年9月2日です。
あなたの学習データが何年何月までかを、最初に1行で書いてください。
その日以降の話は、検索した結果がある場合だけ答えてください。
検索結果が無い項目は「未確認」とだけ書き、推測で埋めないでください。
肝は3行目と4行目です。1〜2行目だけだと、モデルは「私の知識は2024年までです。ただし一般論としては…」と続けて、結局そのあとで埋めます。「未確認と書け」という出力先を与えて初めて、空欄が空欄のまま残ります。
もう1つ、「最新の」という語を機械的に置き換える癖をつけてください。
×「最新の◯◯を教えて」
○「2026年9月2日時点で確認できる◯◯を、出典URLとセットで教えて」
×「今の相場は?」
○「2026年9月2日時点の相場を検索して。取得できなければ『取得不可』と答えて」
実践プラン:今日・今週・30日
今日(3分):上の4行をメモアプリかスニペットツールに登録します。名前は「日付ヘッダー」。それだけで終わりです。
今週(1日5分):自分がよく使うAIに「今日は何年何月何日ですか」と1回聞いてください。答えた日付が今日と違えば、そのツールは検索を自動では走らせていません。これが自分の環境の実測値になります。私の場合、この1問で「毎朝の情報収集で使っていたモデルが2年10か月前にいる」ことが判明しました。
30日:直近1か月で「最新の」「今の」「現在の」と書いた質問を思い出して、そのうち他人に共有した回答を洗い出してください。数が多くなくていい。1本でも見つかったら、それが今回の記事の投資対効果です。
まとめ
要点
AIは今日を知らないのではなく、知らないことに気づいていない。だから「今日」「最新の」と聞くと、空欄を自分で埋めて現在形で断定する。実測で断定率90%・正解0回、ニュース捏造率80%。日付を1行書くだけで、同じモデルの断定率100%が拒否率100%に反転した。
今日の小さな一歩
今から、いつも使っているAIに「今日は何年何月何日ですか」と1回だけ聞いてください。返ってきた日付が今日でなければ、あなたが今朝受け取った「最新情報」は、その日の世界の話です。
筆者の視点
私はAIで毎日コンテンツを作っていますが、AIに一番させてはいけないのは「知らないと言わずに埋めること」だと思っています。能力の問題ではなく、逃げ道を用意しなかった側の設計ミスです。今日の実測でも、責めるべきはモデルではなく「今日」という曖昧な語のほうでした。AIの精度を上げる一番安いレバーは、モデルを変えることではなく、質問の中に日付を書くことです。
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この記事は note にも掲載しています(初出: note版 2026-09-02)。