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記事2026年9月11日

AIに表の合計を出させる人へ|15回中11回ずれ、検算しても直らない

経費の表をAIに貼って合計させたら、15回中11回ずれ、10行以上は1回も合わなかった。「検算して」と頼んでも直ったのは0回。ローカルAIで実測した結果と、答えではなく式を書かせる30秒の3手をまとめました。

経費の表をAIに貼って、「合計金額を教えてください」と打つ。しばらく待つと、1行ずつ足し算の式まで並べて「今月の経費の合計金額は54,950円です」と返ってくる。ていねいなので、そのまま精算書に書き写す。

正しい合計は、55,950円でした。たった5行の表で、1,000円ずれていました。

しかも「その合計、合っていますか?検算してください」と頼むと、AIは同じ式をもう一度書いて、「計算は正しく、合計金額は54,950円です」と答えました。

今日、手元のPCで動くAIに、5行・10行・20行の経費の表を15回渡して、合計が1円単位で合うかを数えました。合ったのは4回だけ。外れた11回に「検算して」と頼んで、正解に直ったのは0回でした。 結論から言います。AIに合計を「答えさせる」のをやめて、「式を書かせる」だけで、この事故は防げます。


① 5行の表で1,000円ずれた、実際のやりとり

「さすがに5行の足し算くらいは大丈夫でしょう」と思うかもしれません。私もそう思っていました。

実際に渡した表と、返ってきた答えをそのまま載せます。

【渡した表】
9/24 送料  930円
9/1  送料 40,280円
9/11 備品  3,090円
9/27 備品  3,100円
9/23 送料  8,550円

【AIの答え】
930円 + 40,280円 + 3,090円 + 3,100円 + 8,550円 = 54,950円
今月の経費の合計金額は54,950円です。

見てほしいのは、どこが合っていて、どこが違うかです。

表の数字を書き写す → ○ 5つとも正しい
足し算の式を立てる → ○ 式そのものは正しい
=の右の答え    → × 54,950円(正しくは55,950円)

書き写しも式も完璧で、最後の答えだけが違います。 だから途中を目で追っても、「ちゃんと計算してくれている」ようにしか見えません。

なぜこうなるのか。AIは電卓のように桁ごとに繰り上げて足しているわけではなく、「=」のあとに来そうな数字を1文字ずつ予測して書いています。式を書くことと、その式を正しく計算することは、AIの中では別の作業です。 今回は、千の位への繰り上がりが1つ落ちたような、ちょうど1,000円のずれでした。

今日できること:直近でAIに出させた合計を1つ選んで、電卓で叩き直してみてください。

② 行数を増やしたら、10行以上は10回中10回ずれた

条件をそろえて、行数だけを変えました。

  • 使ったモデル:qwen2.5(7B)。ノートPCで動く、無料の公開モデルです
  • 表:日付・項目・金額の3列。金額は1回ごとにランダムに作り、毎回ちがう表にしました
  • 頼み方:「今月の経費です。合計金額を教えてください。」+表だけ。ふだんの頼み方そのままです

結果はこうなりました。

表の行数 1円まで合った回数 外れたときのずれ
───────────────────────────────
 5行   5回中4回     −1,000円
10行   5回中0回     −9,090円 〜 +5,660円
20行   5回中0回     −31,210円 〜 +11,470円

10行以上では、正解は1回も出ませんでした。 行数が増えるほど足し算の手数が増え、どこか1か所でも繰り上がりを落とせば答えは外れます。

これはこのモデルだけの話ではありません。Appleの研究者らが発表した GSM-Symbolic(ICLR 2025)では、算数の文章題に条件を1つ足すだけで、最先端のモデルでも正答率が大きく落ちることが示されています。 参考: https://arxiv.org/abs/2410.05229

もう1つ、偶然わかったことがあります。実験の途中で、同じ10行の表をもう一度渡してしまった回がありました。正解91,630円の表に対して、1回目は92,540円、2回目は93,560円。同じ表でも、間違え方が毎回ちがうのです。再現しないので、あとから「どこで間違えたか」を追うこともできません。

念のため書いておくと、ChatGPT や Claude の最新モデルは、今回のモデルよりずっと計算が得意です。同じ割合でずれるとは言いません。ただ、数字を予測して書く仕組みは同じなので、頭の中で出した答えの数字が保証されていないという点は変わりません。どう見分けるかは⑤で書きます。

今日できること:AIに合計を頼んでいる表が何行あるか、数えてみてください。

③ ずれは「惜しい」ほど見抜けない

外れた11回のずれを、合計に対する割合で見ると0.99%〜19.02%。11回中7回は5%未満で、真ん中の値は3.66%でした。10行の表でいちばん小さかったのは、9万1,630円に対して910円、1%に届かないずれです。

これが一番やっかいです。桁も合っている、雰囲気も合っている。大きく外れないから、目で見て気づけません。

しかも冒頭の5行の例は、「端数が合っていれば大丈夫」という確かめ方もすり抜けます。

正解 55,950円
AI  54,950円
    ↑千の位だけが違う
     ↑下3桁「950」は一致

経費精算、請求書の合計、売上の月次集計。人は「桁が合っていて、端数も合っている」数字を見ると、合っていると判断してしまいます。AIの計算ミスは、とんでもない数字ではなく、もっともらしい数字で来ます。

今日できること:AIに出させた合計を見るとき、「桁と端数が合っているから大丈夫」という判断をやめてください。

④ 「検算して」と頼んでも、同じAIは同じ答えを出す

ここがいちばん伝えたいところです。

外れた11回すべてで、続けて「その合計、合っていますか?検算してください」と頼みました。

同じ間違いのまま「正しい」と答えた 7回
別の間違った数字に変わった    4回
正解に直った           0回

「検算して」で正解に直ったのは0回でした。 冒頭の例のように、AIは同じ式をもう一度書き写し、「計算は正しく」と言い切ります。20行の表では、20個の金額を1つも間違えずに書き写したうえで96,060円と答え(正しくは118,620円)、検算を頼むと「計算結果は一致しています」と返しました。

「数字が変わった」4回も、安心材料にはなりません。ある回は「私の前の計算に誤りがあったようです」と謝ったうえで、別の間違った数字を出しました。謝り方がていねいなほど、今度こそ合っているように見えてしまいます。

理由はシンプルです。検算を頼まれたAIは、自分がさっき書いた式と答えを「会話の続き」として読み、それに沿った文章を続けます。自分の答案を自分で採点しているのと同じで、同じ思い込みをもう一度なぞるだけになります。

ちょうど9月9日、米カリフォルニア州でAIの第三者監査に関する法律2本(SB 813・AB 1405)に知事が署名しました。AIを作った企業が、自社のAIを自分だけで評価する状態を避けるための枠組みだと説明されています。 参考: https://www.gov.ca.gov/2026/09/09/governor-newsom-signs-first-in-the-nation-ai-safeguards-to-protect-californians-calls-on-the-federal-government-to-do-its-part/

規模はまったく違いますが、原理は同じです。検算は、答えを出した本人ではなく、別の道具にやらせる。

今日できること:「検算して」とAIに頼むのをやめて、その1回分の手間を電卓か表計算に回してください。

⑤ つまずきやすい3つの思い込み

思い込み1:「途中の式が書いてあるから安心」 ①で見たとおり、式が正しくても答えは違うことがあります。式は「計算した証拠」ではありません。

思い込み2:「ChatGPTやClaudeなら、裏で計算ツールを使っているはず」 使うこともありますが、毎回ではありません。OpenAIのヘルプでは、データ分析の一部のタスクで ChatGPT が Python のコードを書いて実行する、と説明されています。Anthropicのドキュメントも、計算が必要な場面で Claude がコードを実行する、という書き方です。つまり使うかどうかはAIが決めています。 画面にコードや「分析」の表示が出ていなければ、その数字は頭の中で予測したものかもしれません。 参考: https://help.openai.com/en/articles/8437071-data-analysis-with-chatgpt 参考: https://platform.claude.com/docs/en/agents-and-tools/tool-use/code-execution-tool

思い込み3:「行数が少なければ大丈夫」 5行でも5回中1回ずれました。行数が少ないとずれにくくなるだけで、ゼロにはなりません。

今日できること:次にAIの答えに数字が出てきたら、その画面にコードや実行結果が出ているかを見てください。

⑥ 答えではなく「式」を出させる、30秒の3手

手1:スプレッドシートに入れる式を出させる(コピペで使えます)

20行の表で、答えの代わりに式を頼んだところ、5回中5回、正しい範囲の =SUM(C2:C21) が返ってきました。合計を答えさせたときは5回中0回だった、同じ20行の表でです。範囲を指定する式なら、足し算そのものはAIがやらないので、繰り上がりを落としようがありません。

この表の合計を出したいです。
合計の数字そのものは書かないでください。
代わりに、次の2つだけ答えてください。

1)スプレッドシートの合計セルに入れる式
  (金額はC列、1行目は見出し、データは2行目から◯行目)
2)この表のデータの行数

2つ目の「行数」は、貼り付けたときに行が欠けていないかを照らし合わせるためのものです。

手2:AIの中で計算させるなら「Pythonで計算して、実行結果を見せて」と書く

ChatGPT や Claude でコード実行が使える環境向けです。返事にコードと実行結果が表示されたかを確認します。出ていなければ、手1か手3に切り替えます。

手3:表計算に貼って、範囲選択して右下を見る

Excel も Googleスプレッドシートも、数字のセルを範囲選択するだけで画面の右下に合計が出ます。式すら要りません。3秒で終わります。

【いま】表を貼る → AIが合計を答える → 書き写す
【変更】表を貼る → AIが式を書く → 表計算が計算 → 書き写す
                  ↑計算するのは表計算

実践プラン:今日・今週・30日

今日:今月AIに出させた合計を1つ、表計算に貼って範囲選択し、右下の数字と見比べる。

今週:手1のテンプレをメモアプリに保存して、次に合計を頼むときはそれを使う。

30日:AIに「数字を答えさせている」場面(合計・平均・前年比・割合)を書き出し、全部「式を出させる」に置き換える。月末の締めで一度まとめて見直す。

まとめ

・要点 AIが書いた合計は、式が正しくても答えが正しい保証はありません。15回中11回ずれ、10行以上では1回も合わず、「検算して」で直ったのは0回でした。計算は表計算にやらせ、AIには式を書かせます。

・今日の小さな一歩 今から、直近でAIに出させた合計を1つだけ、表計算に貼って範囲選択し、右下の数字と見比べてください。

・筆者の視点 私は毎朝AIに記事やサイトを作らせていますが、任せる量が増えるほど、「どこを別の道具で確かめるか」を先に決めるようになりました。AIが得意なのは文章や式を組み立てること、電卓が得意なのは間違えないことです。役割を分けるだけで、確認の手間はむしろ減ります。AIには式を書かせる。答えは、計算機に出させる。


同じように、AIが出した合計をそのまま報告書に貼ったこと、ありませんか。役に立ったら♡やブックマークをどうぞ。

この記事は note にも掲載しています(初出: note版 2026-09-11)。