AIに毎回ちがう言い方で頼む人へ|ブレが4分の1になった固定ブロックと、逆効果の1行
同じ用件を6回ずつ、その場で書いた指示と固定ブロック+1行で投げ比べた実測。指定した「形」は0/6から6/6に、出力のブレは4分の1に。ただし字数指定は0/6、「使うな」と書いた語は逆に4倍へ増えました。
AIに同じ種類の仕事を頼むとき、あなたは毎回、その場で思いついた言い方で打っていませんか。
私もそうでした。「箇条書きで」「丁寧すぎない感じで」「簡潔に」。言っていることは毎回だいたい同じなのに、返ってくる文章の形は毎回ちがう。それで結局、出てきた文を自分で整え直す。
今日、その「だいたい同じ」を本当に測ってみました。同じ用件を6回ずつ、2つのやり方でAIに投げた結果、形の再現性は0/6から6/6になり、出力のブレは4分の1に減りました。ただし、いちばん効くと思っていた「◯◯を使わないで」という1行だけは、逆効果でした。
1 「毎回ちがう言い方」は、AIにとって毎回ちがう仕事です
あなたが送っているのは、あなたの頭の中では「いつものアレ」です。でもAIが受け取っているのは、その日打った56字の文字列だけです。昨日の「丁寧すぎない感じで」も、先週の「簡潔に」も、そこには入っていません。
AIの答えがブレる原因の多くは、モデルの気まぐれではなく、こちらが毎回ちがう指示を出していることです。
そして、ここが厄介なところなのですが、私たちは「言わなかったこと」に気づけません。「取引先に送る短い連絡文を書いて。箇条書きで、丁寧すぎない感じで」と打ったとき、自分では十分に伝えたつもりでいます。実際には、件名を付けるのか付けないのか、署名を入れるのか、何行にするのか、何字くらいなのか、解説を添えていいのか──ひとつも言っていません。
言われなかったところを、AIは毎回ちがう方法で埋めます。だから毎回ちがう形が返ってくる。モデルを変えても、この部分は直りません。
この節で今日できること: 直近にAIへ送った依頼文を1つ開いて、「自分が言わなかった条件」を3つ書き出してみてください。
2 同じ用件を6回ずつ、2つのやり方で投げてみた
言葉で議論しても水掛け論になるので、測りました。手元のPCで動くローカルのAI(ollama で動かした qwen2.5:7b。無料・オフライン、外部の課金APIは使っていません)に、まったく同じ用件を2つのやり方で6回ずつ投げます。温度は0.8のまま、いじっていません。
用件は全条件で同じにしました。
「来週火曜10時からの定例を、11時開始に変更したい」
条件A=毎回その場で書いた指示。 実際に人がやりがちなように、少しずつ言い方を変えた3種類を回しました。1回あたり56〜59字です。
・「来週火曜10時からの定例を、11時開始に変更したい。取引先に送る連絡文を書いて。箇条書きで、丁寧すぎない感じで。」
・「取引先向けの短い連絡文をお願いします。用件は『…』。かたすぎない文で。」
・「…という連絡をメールで送りたいです。箇条書きで簡潔に書いてください。」
条件B=固定ブロック(毎回1字も変えない148字)+可変1行(31字)。合わせて179字です。 中身は次のとおりです。
あなたは日本企業の営業担当です。取引先へ送る短い業務連絡文を書きます。
出力形式(厳守):
・本文のみを出力する。件名・宛名・署名・前置き・解説は書かない。
・行頭が「・」の箇条書きを、ちょうど3行。
・全体を120字以上180字以内。
・敬体(です・ます)で書く。
・「させていただ」という表現は使わない。
今回の用件: 来週火曜10時からの定例を、11時開始に変更したい
判定は目視ではなく、スクリプトで機械的にやりました。①行頭「・」の箇条書きがちょうど3行か ②空白を除いた字数が120〜180字に入るか ③「させていただ」を含まないか。この3つを、12本すべてについて自動で数えています。
3 結果:形は0/6から6/6に。ブレは4分の1になった
数字がはっきり出ました。
条件A 条件B
指示の長さ 56字 179字(固定148+可変31)
3行の箇条書き 0/6 6/6
出力の字数 114〜212字 68〜95字
字数のばらつき ±34字 ±8字
「箇条書きで」と毎回書いていた条件Aは、6回とも箇条書きになりませんでした。0/6です。 これは私にとって、いちばん意外な数字でした。「箇条書き」という言葉は伝わっているはずなのに、返ってきたのは全部、普通のメール文でした。
実際の出力を見ると理由がわかります。条件Aの1本目はこうでした。
次回の定例会議について
いつもお世話になっております。
この度は、来週火曜日の定例会議の時間を変更させていただくことになりました。
(中略)
ご理解とご協力をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
件名があり、時候の挨拶があり、締めの挨拶が2回あります。AIは「箇条書き」より「取引先へのメール」という文脈を優先しました。曖昧な形容詞(簡潔に、丁寧すぎない、箇条書きで)は、文脈に負けます。
一方の条件Bは、6回すべてが「・」で始まるちょうど3行になりました。件名も挨拶も署名も1本も出ていません。「本文のみを出力する。件名・宛名・署名・前置き・解説は書かない」という否定の列挙が、そのまま効いています。
出力の字数のばらつきも、標準偏差で±34字から±8字へ、約4分の1になりました。これは「読まずに使えるかどうか」の差です。 毎回114字〜212字で返ってくるものは、毎回目で確認しないと使えません。68字〜95字に収まるものは、流し読みで済みます。
この節で今日できること: いつもの依頼から「簡潔に」「いい感じに」という語を消して、代わりに「◯行」「◯字以内」と書き直してください。
4 いちばんの発見:「使うな」と書いた言葉が、逆に4倍に増えた
ここからが本題です。条件Bは万能ではありませんでした。3つの判定のうち、通ったのは「形」だけです。
判定項目 条件A 条件B 結果
行頭「・」で3行 0/6 6/6 ◎ 完全に効いた
字数120〜180字 3/6 0/6 × まったく効かない
「させていただ」なし 5/6 2/6 ×× 逆効果
字数指定は0/6です。「120字以上180字以内」と書いたのに、6本すべてが68〜95字で、下限すら1本も超えませんでした。AIは字を数えていません。
そして、「『させていただ』という表現は使わない」と書いた結果、その表現の登場が1/6から4/6へ、4倍に増えました。
指示に書いたほうが、書かなかったときより悪くなったということです。「ピンクの象を思い浮かべないでください」と言われると象が浮かぶ、あの現象と同じです。禁止語を書いた時点で、その語はAIの目の前に置かれます。モデルにとって「使うな」は否定ではなく、「その語に注目せよ」という指示に近い重みで働きます。
ここから引き出せる実務ルールは、はっきりしています。
固定ブロックには「形」を書く。「数」と「禁止」は書かず、あとで機械に数えさせる。
・「形」=何を出すか/何を出さないか、順番、構造。これは効きます(0/6→6/6)。 ・「数」=字数、件数、行数。行数のように構造と一体の数は効きましたが、字数のような後から数える数は効きませんでした。 ・「禁止」=◯◯を使うな。効かないどころか、逆に呼び込みます。
禁止したい表現がある場合は、否定形で書かずに言い換えを肯定形で指定するのが正解です。「『させていただ』を使わない」ではなく、「動詞は『します』『いたします』の形で終える」と書く。禁じるのではなく、置き換え先を与える。
この節で今日できること: あなたの指示文に「〜しないで」「〜は禁止」があれば、1つだけ肯定形に書き換えてみてください。
5 固定と可変を切り分ける:私の指示書は固定8,216字・可変30字でした
「固定ブロックなんて大げさな」と思うかもしれません。でも自分の作業を測ると、ほとんどが固定だとわかります。
私はこのnote記事を毎日書くために、自分用の指示書ファイルを1つ持っています。手順、品質基準、公開のやり方、タイトルの型、やってはいけないこと。空白を除いて数えたら8,216字ありました。
そして、この指示書のうち毎日変わる部分は「今日の日付」と「今日のテーマ」だけです。文字数にして30字前後。割合にすると0.4%ほどです。
【毎回ゼロから書く】
1回目 ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ 思い出しながら全部書く(毎回ちがう)
2回目 ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ また思い出しながら全部書く(また少しちがう)
3回目 ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ 抜けが出る → 出力がブレる → 手直し
【固定+可変に割る】
固定 ████████████████ 8,216字(1度書いて、以後さわらない)
可変 ▪ 30字(今日の日付とテーマだけ)
→ 抜けようがない → 出力が揃う → 手直しが減る
切り分けの基準は1つだけで足ります。「次回も同じことを言うか?」 イエスなら固定、ノーなら可変です。
・役割(あなたは◯◯です)→ 毎回同じ → 固定 ・出力の形(何行・何を書かない)→ 毎回同じ → 固定 ・読み手(社内向け/取引先向け)→ 毎回同じ → 固定 ・トーンの見本(実際に過去に使った良い文を1本)→ 毎回同じ → 固定 ・今回の用件 → 毎回ちがう → 可変
見落としがちなのは4つ目の**「見本を1本入れる」**です。形容詞で「丁寧すぎない感じ」と書くより、実際にちょうどいい文を1本貼ったほうが速く伝わります。今回の実験では入れていませんが、条件Aが崩れた理由がまさに「形容詞に頼ったこと」だったので、見本の効き目は同じ方向のはずです。
この節で今日できること: 今週AIに同じ種類の依頼を2回以上したものを1つ選び、「次回も同じことを言う部分」に線を引いてください。
6 コピペで使う:固定ブロックの雛形
そのまま使える形にしておきます。◯の部分だけ埋めてください。
【固定ブロック|1度書いたら以後さわらない】
あなたは◯◯(役割・立場)です。◯◯(誰)に向けた◯◯(何)を書きます。
出力形式(厳守):
・本文のみを出力する。前置き・解説・感想は書かない。
・◯◯(構造。例: 行頭が「・」の箇条書きをちょうど3行/見出し2つ+本文)
・敬体(です・ます)で書く。
・専門用語を使う場合は、初出で1行の言い換えを添える。
判断に迷ったとき:
・情報が足りない場合は、書き進めずに不足している項目だけを列挙する。
・事実が確認できない箇所は、書かずに「要確認」と置く。
見本(このトーンに合わせる):
◯◯(過去に実際に使った、ちょうどいい文を1本そのまま貼る)
【可変|毎回ここだけ書き換える】
今回の用件: ◯◯
置き場所は、使っているツールによって変わります。
・ChatGPT/Claude のプロジェクト機能を使っているなら、プロジェクトの説明欄に固定ブロックを入れて、チャットには可変1行だけ打つ。 ・カスタム指示(設定に常時入る指示)があるなら、複数の用途で共通する部分だけをそこに置く。用途ごとの形はプロジェクト側に置く。 ・どちらも使っていないなら、メモ帳に1ファイル置いて、毎回貼るだけで十分です。 貼る手間は3秒で、手直しの2分より安い。
大事なのは仕組みの高級さではなく、「毎回同じ文字列が届いている」という一点です。
この節で今日できること: 上の雛形をメモアプリに貼って、◯を1つだけ埋めてください。全部埋めなくて構いません。
7 つまずくのは、だいたいこの4か所です
①固定ブロックが太りすぎる。 思いつく条件を全部入れると、読ませたい部分が埋もれます。今回効いた固定ブロックは148字です。最初は5行以内から始めて、崩れた項目だけ足してください。
②禁止事項ばかりを並べる。 4節の実測どおり、否定は効きにくく、逆効果になることさえあります。「書かない」で効いたのは「件名・宛名・署名・前置き・解説は書かない」という出力の要素についての否定で、「させていただ」という語の否定は効きませんでした。構造の否定は効く、語の否定は効かない、と覚えておくと外しません。
③可変のほうに前提が混ざる。 「今回の用件」の中に「今回はちょっと固めで」と書き足したくなりますが、それを毎回やると条件Aに逆戻りします。2回続けて同じ書き足しをしたら、それは固定に昇格させてください。
④固定ブロックを一度も直さない。 固定は「変えない」ものであって「間違ったままでいい」ものではありません。手直しが発生したら、その場で直すのではなく固定ブロックを1行直す。 これをやらないと、永遠に同じ手直しを繰り返します。私は今回の実験のあと、自分の雛形から「字数指定」を外して「行数指定」に置き換えました。
8 業界も「使い回し」に値段をつけ始めています
ここまでは手元の話ですが、同じ方向の動きが業界側でも起きています。
9月1日、Anthropic が Claude Fable 5.1 を公開し、キャッシュ読み出しの料金を100万トークンあたり1.00ドルから0.25ドルへ、75%引き下げました(入力10ドル/出力50ドルは据え置き)。同社は典型的な用途で約25%、エージェント型の反復作業では最大約45%のコスト減になると説明しています。
プロンプトキャッシュは割引券ではありません。AIは文章を読むとき、単語どうしの関係を計算した中間データを作ります。同じ長い指示を毎回渡すと、AIは毎回この計算をやり直していました。キャッシュはその中間データを保存して次回使い回す仕組みです。下ごしらえの工程そのものを飛ばしているから、読み出しだけが桁違いに安くなります。
公式ドキュメントの一般則では、キャッシュ読み出しは入力単価の0.1倍、5分間の書き込みが1.25倍、1時間の書き込みが2倍です。Fable 5.1 の0.25ドルは入力10ドルの40分の1で、一般則よりさらに踏み込んだ水準ということになります。
参考: Anthropic公式ドキュメント(プロンプトキャッシュ) / VentureBeat(Fable 5.1・Mythos 5.1)
4,000トークンの固定ブロックを、5分以内に50回投げる作業で計算してみます。
キャッシュなし: 4,000×50=200,000トークン × 10ドル/100万 = 2.00ドル
キャッシュあり: 書き込み1回 0.05ドル + 読み出し49回 0.049ドル = 約0.10ドル
→ 約20分の1(1ドル150円なら 300円 → 15円)
ただし、正直に書いておきます。これはAPIを直接使う人の話で、ChatGPTやClaudeの月額プランを使っているだけなら、あなたの請求額は1円も変わりません。 それでもこの値付けには意味があって、「同じものを繰り返し渡す使い方こそ主戦場だ」と各社が価格表で宣言しているということです。手元でやっている固定ブロックの分離は、業界が金を払って最適化している方向と同じです。
9 実践プラン(今日/今週/30日)
今日(10分) ・AIに同じ種類の依頼を2回以上した仕事を1つ選ぶ。 ・6節の雛形をメモアプリに貼り、役割・出力形式・見本の3つだけ埋める。 ・次にその依頼をするとき、固定ブロックを貼ってから可変1行を書く。
今週(合計30分) ・その依頼を3回使う。手直しが出たら、出力を直さずに固定ブロックを1行直す。 ・「〜しないで」と書いた行があれば、肯定形の言い換えに変える。 ・字数指定を書いていたら、行数・項目数の指定に置き換える。
30日(週1回・各10分) ・週に1回だけ固定ブロックを見直す。追加は1行まで、削除は制限なし。 ・同じ手直しを2回した項目だけを固定に昇格させる。 ・4週目に、最初のバージョンと今のバージョンを見比べる。太っていたら削る。148字で6/6が出た事実を思い出してください。
まとめ
・要点 AIの答えがブレる主因は、モデルではなく「毎回ちがう指示を出していること」です。固定ブロックを1つ作るだけで、出力の形は6回中0回から6回中6回になり、字数のばらつきは4分の1になりました。ただし字数指定と禁止語は効かず、「使うな」と書いた語はむしろ4倍に増えました。固定ブロックには「形」を書き、「数」と「禁止」は書かないでください。
・今日の小さな一歩 今から、直近にAIへ送った依頼文を1つ開いて、「次回も同じことを言う部分」に線を1本引いてください。所要1分です。線を引いた部分が、あなたの固定ブロックの第1版です。
・筆者の視点 私はAIで毎日コンテンツを作っていますが、精度を上げた施策のほとんどは、モデルの変更でも高度なプロンプト技法でもなく、「毎回同じ文字列が確実に届いている状態を作る」という地味な作業でした。今回のように、良かれと思って足した1行が逆効果になることもあります。だからこそ、勘ではなく回数で確かめる価値がある。AIに求める前に、まず自分の指示を固定してください。ブレているのは、たいてい人間側です。
同じ場面、ありませんか。役に立ったら♡やブックマークをどうぞ。毎日こういう検証を続けています。
この記事は note にも掲載しています(初出: note版 2026-09-03)。