「もっと簡潔に」が効かない。AIには指示ではなくお手本を1枚
AIの出力が「なんか違う」とき、形容詞を足しても直りません。直るのは完成形を1枚見せたとき。例の最適枚数、お手本の調達先3つ、コピペ用テンプレまでまとめました。
「もっと簡潔に」「もう少し丁寧に」「そこはカジュアルで」。同じような指示を3回打ち直しても、出てくる文章が少し違うだけで、欲しかったものには近づかない。
私はこれが、AIを使っていていちばん時間を溶かす作業だと思っている。しかも原因はAIの性能ではなく、こちらが渡している情報の量にある。
先に結論を書きます。形容詞を足すのをやめて、完成形のお手本を1枚貼る。 これだけで、3往復かかっていたやり取りが1往復になります。
形容詞は「圧縮された指示」で、解凍のしかたはAIに任されている
「簡潔に」は何文字のことでしょうか。あなたの頭の中では300字かもしれませんが、AIの中では800字かもしれません。「丁寧に」は敬語の話なのか、説明の細かさの話なのか、相手への配慮の話なのか。
形容詞は、自分の頭の中にある完成形を極端に圧縮したものです。圧縮ファイルは、解凍のしかたが分からなければ元には戻りません。人間相手なら「その言い方だと、こういうことですよね?」と確認が返ってきますが、AIは確認せずに、自分の解釈で解凍して出してきます。
だから「違う」と言って形容詞を足す→また別の解釈で解凍される→また違う、というループになる。ループが終わらないのは、こちらが一度も完成形を見せていないからです。
【形容詞ループ】
「簡潔に」→ 解釈A → 違う
「もっと簡潔に」→ 解釈B → 違う
「箇条書きで簡潔に」→ 解釈C → 惜しい
……3往復して、まだ完成形を見せていない
【お手本1枚】
「この文体で」+完成形サンプル1つ → ほぼ一発
……1往復で、解釈の余地がほぼゼロになる
「例は多いほどいい」も成り立たない
ではお手本を5枚も6枚も貼ればいいのかというと、そこにも落とし穴があります。
2025年9月に公開された論文「The Few-shot Dilemma: Over-prompting Large Language Models」(Tang ほか、arXiv:2509.13196)は、プロンプトに例を入れすぎると逆に性能が落ちる現象を報告しています。検証されたのは GPT-4o、GPT-3.5-turbo、DeepSeek-V3、Gemma-3、LLaMA-3.1/3.2、Mistral の7系統。タスクはソフトウェア要件を機能要件/非機能要件に仕分ける実務的な分類でした。
要点は2つです。ひとつは、例の最適な枚数はモデルごとに違い、そこを超えると落ちること。もうひとつは、例の選び方として意味の近さ(埋め込み)より、単語の重なり(TF-IDF)で選んだほうが良かったこと。
これを日常の使い方に翻訳すると、こうなります。貼るのは1〜2枚でいい。そして選ぶ基準は「テーマが似ている例」ではなく「使ってほしい語や言い回しが実際に入っている例」。書きたい内容が違っても、文体さえ合っていればお手本として機能します。
「お手本がない」はほぼ起きない。調達先は3つある
ゼロから理想の文章を書く必要はありません。すでに手元にあります。
1)過去の自分の文章。 いちばん強いお手本です。自分が「これは我ながらうまく書けた」と思ったメールや投稿を1本、テキストで残しておく。私は自分の文体サンプルを1つテキストファイルに置いていて、文章まわりの依頼ではこれを毎回貼っています。
2)相手が書いた文章。 メールの返信なら、相手から届いた文面がそのままお手本になります。相手の文の長さ・敬語の濃さに寄せると、返信の違和感がほぼ消えます。
3)AIの直前の出力のうち、唯一よかった1段落。 全体はダメでも、1段落だけ当たっていることはよくあります。それを切り出して「この段落の書き方で全部そろえて」と返すのがいちばん速い。
【お手本の調達フロー】
過去の自分の文がある? ──YES→ それを貼る(最優先)
│NO
相手からの文面がある? ──YES→ それを貼る(文体を合わせる)
│NO
直前の出力に良い段落が1つある? ─YES→ 切り出して貼る
│NO
→ 完成形が自分でも決まっていない(最終章へ)
お手本には「どこを真似するか」を1行添える
お手本をそのまま貼ると、内容まで引きずられます。他社の事例文を文体見本のつもりで貼ったら、その会社名や話題が混ざって出てきた——これは実際によく起きます。
真似してほしい要素を名指しすれば防げます。そのままコピペで使えるテンプレートを置いておきます。
以下は「文体のお手本」です。内容は完全に無視して、次の3点だけ真似してください。
1)1文の長さ 2)漢字とひらがなの比率 3)結論を先に置く順番
---お手本ここから---
(お手本の文章を貼る)
---お手本ここまで---
では、この文体で以下を書き直してください。
---書き直す文ここから---
(直したい文章を貼る)
---書き直す文ここまで---
「内容は完全に無視して」の1行がないと、話題ごと寄っていきます。ここが一番つまずくところです。
「悪いお手本」を1つ足すと、境界線が引ける
良い例だけを見せると、AIは「どこまでがOKか」の上限を知りません。振り切りすぎた出力が返ってくるのはこれが原因です。「カジュアルに」と言ったら、絵文字だらけになった経験はないでしょうか。
NG例を1つ添えると境界が引けます。
◎ こう書いてほしい:
「今回の件、結論から言うと今週は見送りです。理由は3つあります。」
× ここまでいくとやりすぎ:
「結論!今週は見送りっす🙌 理由いきまーす!!」
良い例と悪い例を1つずつ。これで「くだけた文体」の幅が数値化されないまま、実質的に定義できます。
それでも直らないなら、直せない要求をしている
お手本を貼っても直らないときがあります。そのときは、AIではなく自分の側を疑う番です。
判定は1問で済みます。「合格の文章を、いま自分で1行だけ書けるか?」
書けるなら、それを貼れば終わりです。書けないなら、完成形が自分の中でまだ決まっていないということ。決まっていないものは、誰に何回頼んでも出てきません。この場合の正しい次の一手は、プロンプトを練ることではなく、「今回の文章で絶対に伝えたい1文」を自分で書くことです。
ちなみに、この構造はモデルが賢くなっても消えません。ここ数日もAI業界は土台への投資が続いていて、8月5日にはGoogleのチーフサイエンティストだったJeff Dean氏ら4人が同社を離れて新会社を設立し、8月6日にはGoogleがAI研究の指揮をカリフォルニアに集約する体制変更を発表しています(Demis Hassabis氏はGoogle DeepMind会長兼Alphabetチーフサイエンティストへ)。モデルはこれからも速くなり賢くなる。それでも、あなたの「簡潔に」が何文字を指すかという情報は、どこにも存在しない。これは性能の問題ではなく情報の問題なので、来年のモデルでも同じことが起きます。
まとめ:今日から変えるのは1か所だけ
- 「なんか違う」と思ったら、形容詞を足さずに完成形を1枚貼る
- 貼るのは1〜2枚。多いほど良いは成り立たない(arXiv:2509.13196)
- お手本は過去の自分/相手の文面/直前の出力の良かった1段落から調達する
- 「内容は無視して、○○だけ真似して」の1行を必ず添える
- NG例を1つ足すと、やりすぎの境界が引ける
- それでも直らないなら、合格の1行を自分で書く
まず今日、自分が「うまく書けた」と思う文章を1本だけ、テキストファイルにコピーして残しておいてください。次にAIに文章を頼むとき、そのファイルを開いて貼るだけです。準備はそれで終わりです。
同じように「もっと簡潔に」を何度も打ち直した経験、ありませんか。役に立ったら♡やブックマークをしてもらえると励みになります。